ご挨拶

 私は大学卒業後、臨床医としてキャリアを歩み始めました。さまざまな疾病をもつ患者さんの診療にあたる中で、環境の変化やストレスに反応してダイナミックに変化する白血球や赤血球、血小板などの血液細胞と、これら全ての血液細胞の源となる造血幹細胞に興味を持ちました。特に思い出に残っているのは、医師になってはじめて担当した患者さんの一人で、末梢血幹細胞移植という治療を受けた方です。末梢血幹細胞とは、本来骨髄にある造血幹細胞を、薬剤を用いて血液中へ動員した後に回収したものです。この細胞を、体内の腫瘍細胞を根絶するための強力な抗がん剤治療を受けた患者さんの骨髄のダメージから造血を回復させるために利用するのが末梢血幹細胞移植です。この患者さんの診療を通して、当時の最先端の科学的知見が臨床現場で活用されていたことや、造血幹細胞が患者さんの命を救うための治療に用いられているという事実に感銘を受けるとともに、造血幹細胞は普段体内で何を感じとってどのような調節を受けているのか、より働きやすくするためにどのような事ができるのかなど、次々と興味が湧く大きなきっかけとなりました。最終的には、生まれてから生涯を終えるまで、必要に応じた血液細胞を臨機応変に、しかも絶えることなく供給することで生命を支える造血幹細胞と、それを制御するしくみに心惹かれて基礎医学研究の世界に飛び込み、現在に至ります。
 

 東京薬科大学には2020年7月に着任し、新たに幹細胞制御学研究室を立ち上げてスタッフ・大学院生・卒業研究の学部生とともに新しい発見を求めて日々励んでいます。私たちの研究の目的は、造血システムが供給する血液細胞の種類と数を巧みに制御している分子機構を明らかにすることであり、その成果は、幹細胞が多くの細胞から構成される生物の生命を支えるという基本原理の解明にとどまらず、多くの疾患の病態解明や、治療・予防法の開発までの広がりを持つと考えています。
 

 幹細胞制御学研究室では、私がこれまでに臨床の現場と基礎医学研究の両方に従事してきた経験を教育・研究に生かして、世界に向けて活躍できる人材育成と、成果の発信を目指して努めています。私たちにできることがございましたら、共同研究や共同開発などお声がけいただけましたら幸いです。研究への参加に興味をもたれた方がいらっしゃいましたら、いつでもご連絡お待ちしています。
 

2025年4月

東京薬科大学 幹細胞制御学研究室
教授 平位 秀世